サッカーの課題発見学習 -わしら同志会の体育実践-    


ゲームの様相分析学習で教師が仕組むこと

1.はじめに
 学校体育(普段の授業)で、どのようにすれば、技術指導が成り立つのか。ボール操作、身体操作が難しいサッカーで。「ボール操作が難しいから、低学年ではシュートボールやラグハンド」といった意見をよく耳にするが、その論者はおそらく、高学年を担任してもサッカーを教材には選ばない(選べない)であろう。なぜなら、巧緻性(器用さ)が一番伸びるのは、幼児から小学校低学年期の学童であるのに、その時期に足を使ったボール操作の経験をさせないのだから、高学年になって出来るはずがないのである。昨年低学年を担任した私は、「ボール操作能力は、低学年期の児童は高学年の児童の3~4倍の速さで上達し、能力差も少ないので全員が意欲的で上達する。」ことがわかったのである。そこで、本稿では、まず、低学年期の児童向けの指導のあり方とその重要性を述べ、ある程度のボール操作、身体操作が出来る児童を前提に技術学習の指導方法について述べることとする。

2.低学年のサッカー指導
(1)小学校低学年期の児童の特徴
 昨年度私が担任した小学校2年生の児童にボールを投げさせたところ、投げる「手」と反対側の足を一歩前に踏み出して投げた児童は、男子15名中6名、女子にいたっては、9名中たったの1名であった。同じ児童たちが、20時間程度のサッカー学習で、全員が「足裏でボールを前後左右に移動させる、インサイド、アウトサイドを使ってドリブルしながらパスやシュートができる」ようになったのである。
 小学校低学年期の児童は、幼年期の子どもができなかったこと、例えば、ナイフで鉛筆を削る、投げる手と反対の足を一歩踏み出して物を投げる、片方の足を支えにしてもう一方の足でボールを蹴るなど、目と手、手と足、足と足といった2つの動作を関連づけた動き(供応動作)ができるようになる時期である。 しかし、この時期に運動経験を積まなければ、容易そうにみえる「ボール投げ」でさえも満足にできないのである。巧緻性が著しく伸びるこの時期の体育科の課題は、「様々な運動感覚を身に付けさせること」であり、「逆さ感覚」だけでなく、「ボールを手足で操作する感覚」もこの時期を逃してはならないのである。

(2)反省から行動目標が持てる年令    
 野々村美好氏は、著書「科学的な発達の道筋」(文理閣)のなかで、この年令の児童について『「きのうも今日もおくれたから、明日は早く行く」というように、過ぎたことを振り返ったり、行動の予定を子どもながらにたてることができる。』と述べている。このことを考慮して、学習形態も「反省から次の課題」を考えさせるなどのグループ学習に取り組ませたい。そのために、チームの仲間のゲームぶりをしっかり観察するための方策をこうじる必要がある。これは、中・高学年の学習形態=「ゲーム分析から学習課題の把握と問題解決学習」への基礎ともなる学習である。


(3)習熟練習は「ゲーム化」したもので
 小学校低学年では、目的に向かって練習を重ねるといった学習形態では、生きた学習になりにくい。学習の目的に合わせて、ゲーム化したものを用意し、「ゲームを楽しみながら学ぶ」のが習熟につながる。

① ボール相撲

「ルーズボールの確保の仕方(半身になって相手とボールの間に自分の体を入れる)」を学ぶには、ボール相撲というゲームを用意するのである。 土俵のように円を書き、真ん中にボールをおき、二人でボールを取り合うのである。

② 集団ドリブル「くやしい」
「周りを見ながらボールをキープ=ルックアップ」する課題では、四角ないし円の中で十人程度のものが入り、自分のボールをキープしながら、人のボールは外に蹴り出し合うゲームで遊ぶ。ボールを蹴り出された者は、大きな声で「くやしい」と言えば、ゲームを続けることができるのでこの名をつけている。

③「あんどこ」でボールタッチ 
 昨年度、テレビのある番組で、「あんたがたどこサ」を歌いながら、前後左右に飛び跳ねるゲームがはやったことがあったが、それを利用して、そのリズムにのりながらボールタッチをする。「どこサ」「肥後サ」の「サ」のときに足の裏でボールを押さえて止めるのである。山本氏(大阪・枚方市)の実践では、子どもたちが、『二人向かい合わせに立ち、「サ」で互いに保持しているボールを相手にパスし合う』ようなバージョンをも考え出している。

④ いろいろなドリブルゲーム
A地点からドリブルでB地点まで進み、B地点に着いたらA地点の味方にパスをするゲームで、片方の足だけでインサイド・アウトサイドを交互に使ったドリブル、両足のインサイドだけ又はアウトサイドだけでドリブル、足の裏でボールを擦るようにしながら後ろ向き又は横向きに進むなど、いろんなバリエーションでドリブルリレーをする。
 又、ドリブルの進む速さを競うのでなく、一定の距離を進むのに「何回ボールを蹴ったか」=タッチの回数を競うのも良い。

(4)「じゃまじゃまサッカー」
「図2」のようにゴール前の局面を切り取ったコートで行う。学習課題に応じてルールを変えるが、基本的なルールは下記の通りである。

【ルール】
・攻め側と守り側に分かれて交互に行う。
・攻撃時間内(二分程度)なら何点とって も良い。
・攻めはスタートゾーンの外から攻撃を始め、シュートゾーン内でシュートをする。
・シュート成功または、ボールがコート外に 出たときは、スタートゾーン手前にもどっ て、その場所から攻撃を再開する。
・守りは、じゃまゾーン内で守る。奪ったボ ールは遠くへクリアーして良い。
・攻めも守りもゲーム中は、手を使わない。

①「じゃまじゃまサッカー」Ⅰ 
攻め3人、守り2人、ボール3個。(攻めの側を多くしているのは、ドリブル突破の「すき」を見つけやすくするためで、攻めと守りの一対一の攻防をねらう場合は、攻め守り同数でも良い。)ねらいは、ドリブルシュートを全員に体験させ、『防御の「すき」あらばいつでもドリブル突破』を試みる気構えをもたせること。また、守る側のねらいは、先ずゴールとボールの間に入ることと、その方法を学ぶことである。

②「じゃまじゃまサッカー」Ⅱ 
 攻め3人、守り二人、ボール1個。
ボールを持っていない二人がパスコースに走り込み、パスを受けてシュートすることがねらいだが、守りの二人がパスコースに気を取られボール保持者へのマークをゆるめたときには、ドリブル突破。その見極めも学習課題である。

③「じゃまじゃまサッカー」Ⅲ
 班内で半数以上の者がゲームメイクする(最初にボールを保持して攻める役をこなす)ことができれば、「Ⅲ」に入るが、この課題は中学年で学習しても良い。
 新ルールとして、「縦パスはじゃまゾーンに入ってから行う」と、「じゃまゾーン内で守り側がボール保持者のシュートコースを抑えていないときは、じゃまゾーンからシュートしても良い」を追加。
ゲームの様相は、今までスタートゾーンでのゆっくりしたパス出しから、新ルールによって、じゃまゾーンの「入り口」で待ちかまえている守りを「速い横パスで振り切り、次に素早い縦パスをシュートゾーンに送った」り、「フェイントで守りをはずして、縦の突進を試みる」といったものに変わるであろう。

(5)学習の進め方
 昨年の実践では1チームが5人だったので、5回戦表裏の攻防ゲームとして行った。 1回の攻撃に3人、守りに2人ずつ出るので、児童1人は攻撃に3回、守りに2回出ることになる。学習をスムーズに進めるために、前日までに、①前回のゲームの反省と、次回の作戦を考えること。②毎回の攻撃・守備に出る順番を決め、出番のないときの仕事分担(審判・記録)も決めさせた。審判や記録係りは、「今のは、じゃまゾーンからのシュートだからだめ」とか、「今のパスは、じゃまゾーンの手前からしたからあかん」といったことを判定し記録するのだが、これは、中・高学年におけるゲーム様相の分析につながる重要な学習なのである。
 また、学習時間前の休憩時間には、バインダー、記録用紙、ボール、ゼッケンの用意、コート書き、授業後は後始末、個人感想、反省といった仕事も班長、コーチを中心に児童にさせた。仕事分担や話し合いの時間を保障さえしてあげれば、低学年の児童でもできるし、「スポーツ組織の自主管理能力の養成」の意味でも「課題発見学習能力養成」の準備としても、学習内容と位置づけるべきものである。「じゃまじゃまサッカー」を始めた頃は、準備を忘れて遊んでいることもあったが、そんなときは、体育の授業をやめて、教室で別の勉強が待っているので、サッカーをしたい昨年の児童は準備活動でもがんばったのである。
 
3.サッカーの授業の仕組み方
(1)叢書の功績と限界性
 1975年に刊行された『学校体育叢書「サッカーの指導」』は、サッカーの技術的特質を「コンビネーションを含むシュート」ととらえ、その基礎技術を「2人のコンビネーションによるパス→シュート(トラップ、ドリブルを含む)」と規定し、サッカー指導における「系統性」を明らかにした。しかし、学校現場では、学習内容(練習内容)の意味を児童、生徒に分からせないままに機械的に「系統」のパターン練習が繰り返されることも多く、児童が習った『「基礎技術」をゲームに生かせない』で来た。同志会において、「教え込み」型の指導から「児童生徒の認識力」を考慮した「教授学習過程」の研究が注目されるようになったのは「叢書」刊行から十数年後のことであった。

(2)認識の発達はゲーム様相に規定される
 「技術の系統性」をふまえるあまり学習者の技術認識の発達を無視してはならないということである。「技術の系統」と「児童の技術認識の発達」を統一したものを児童の「学習課題」と位置づけたい。しかしながら、「児童の技術認識」とはいっても個々の児童によってそれは異なり、クラスやグループの学習課題を見きわめることは容易ではない。それを包括的に把握する手段として、「学習中におけるゲーム」の「様相分析」より学習課題を引き出したい。これは、個々人の課題と一致していなくても、グループ学習で補える範囲の差異と言える。
 ここで大切なのは、児童自身に「ゲームの様相分析」をさせ、学習課題を発見させなければ、「わかってできる」学習にはならないということである。
 そして、児童に課題発見学習をさせるためには、次のことが重要である。
第1に、
指導する側の教師が、大局的な「ゲーム様相の発展」過程を認識していること。
第2に、
児童が「ゲーム様相」を的確に把握するための「ゲームデーター」の収集、分析手段を教師がもっていることである。

(3)ゲーム様相は攻防関係のなかで発展する
 「ゲーム様相」は、基本的には激しい攻防技術のせめぎ合いを原動力として発展するのである。学習初期において、ドリブルシュートがフリーな状態で成功しているもとでは、「パス→シュート」の戦術は、一部経験者の戦術になり得ても、チーム戦術にはなり得ないのである。一番シンプルなプレー(この場合はドリブルシュート)でシュートが決まるのに、あえて複雑なプレーをする必然性がないのである。教師が、「みんながシュートできる」を強調しすぎると、このようなゲーム様相においても、未熟な児童にシュートさせるために「恵み」のパスが表出することもあるが、このレベルにおける「パス→シュート」は技術認識に根ざしたものとは言えないのである。これを是とすると、「様相分析から学習課題を発見する」学習を放棄したことになり、後の学習は「教師の引き回し」にならざるを得ないのである。
 防御側が、ドリブラーの進路(シュートコース)を塞ぎ、ドリブルシュートの成功率を低下させたとき、攻めの技術の向上(パス→シュート)が児童の共通認識となり得るのである。シュートコースを抑える練習をしながら、未熟な児童もドリブルシュートの練習を『「じゃまじゃまサッカー」Ⅰ』で行うのである。『「じゃまじゃまサッカー」Ⅰ』において、比較的習熟度の高い児童が、防御を引きつけ、未熟な児童のドリブルシュートを成功させることは、「同じ援助」であっても、こちらはゲーム様相にマッチした戦術である。

(4)ゲーム様相の発展過程
 ゲーム様相の発展過程と児童の技術認識の発展は、概ね左記のようだが、実際はそれらの様相が混在することが多く、その時点における主要なもの(発展過程を参考に)を見分けなければならない。
第1段階=密集とワンマンによるドリブルシュート
 ボール操作がおぼつかないため、周りを見ることもできず、意識はボールのみあり、そのため、高学年でも、攻める方向さえ間違える児童もいる状態。ボールを前にしか突っつけない状態では、「ボール相撲」等の学習によって、ルーズボールを自分のものに確保する練習が効果的である。また、児童が「味方がボールを確保したとき、空いたスペースへ移動してパスを受ける」といった作戦を考え出せるように、密集状態を「ビデオ」と「図」で確認させることも必要である。
サッカー経験者がいる場合には、ワンマンプレーヤによるドリブルシュートも同時に表出することがよくあるが、『「じゃまじゃまサッカー」Ⅰ』をゲームと並行して行うと良い。

第3段階=初期的スルーパス
 2段階を割愛したようだが、実は、『「じゃまじゃまサッカー」Ⅰ』において、防御技術がドリブルシュートの成功率をかなり低下させるまでに高まったことを前提にしている。この段階になってはじめて「パス→シュート」がチームの学習課題になるのだが、これに対応しているのは、『「じゃまじゃまサッカー」Ⅱ』である。キーパーを入れて、「3:2(+1)」にするのも良い。
 また、走り込むポイントをより明確にするために、ゴール前にグリッド(ポム)を書き、④⑥地点への走り込みとそれへの縦パスの練習に活用することもできる。

 この時期には、ゲーム記録を取らせて分析させることが、大切である。考えられるゲーム記録は、心電図、ボール軌跡図、シュート位置調査等であるが、ゲームの実態に応じて選択することが大切である。これらの両チームのデーターを児童に提示するのである。
「 心電図Ⅰ」は、相手チームの心電図の一部である。相手チームにボールを奪われたら、簡単にドリブルシュートされている。相手のボール保持者からゴールを死角に入れる技術を獲得しているにもかかわらずである。こういった疑問をもとに検討し、次回は心電図を取るのではなく、「ボールを奪われた場所やその瞬間の味方の陣形」について調べることを記録係(兄弟チーム)に依頼するのである。調査結果=ハーフラインより自陣で奪われたときで、ボール保持者以外は相手陣内にあがっているから、戻れない。このようにして「攻防の切り替え」ができるポジショニングが班の学習課題になるのである。

第4段階=縦パスのレシーバーをマーク
 この段階での「縦パス →シュート」は、比較的容易い。もちろん、走り込むタイミング、パスの強さや方向、シュートにつなげるトラップ。初心者にとっては難しい課題だが、失敗を恐れずトライすれば、マスターできる。 なぜなら、防御技術は、ボール保持者のマークは出来ても、縦パスのレシーバーのマークはまだ分かっていないからである。攻めが優位にたてば、守りの課題が鮮明になってくる。
 「図6」は、ボール保持者Aを防御Xがマーク しているところに、Bが走り込んで、「パス→シュート」の場面である。防御YがBのマークにあたるのだが、そのポジション
を何処に位置すればよいか。これが、この段階の課題である。理想としては、Bをマークしつつも、XがAに抜かれたときのサポートも必要なので、「図内の太い点線」の間で、キーパーと重ならない場所に位置すれば良いのだが、児童の認識段階から言えば、「Bのシュートコースに入る」であろう。Aが、Xの隙あらば抜いてシュートする姿勢が強いクラスでは、「太い線の間 」に位置することも、比較的早い時点で、学習課題となる。
 コーチ会議で全チームの心電図を分析し合ったときに、よく出る疑問としては、次のようなものがある。
「Aチームは、パスが多く通っているのに、シュートの回数が非常に少ない。一方Bチームは、パスカットされることも多く、パス成功率は低いが、シュート数や成功数も多い。」ゲームを観察している教師は、そのわけを見抜いてはいるのだが、児童は分からない。討議で、Aチームについては、2つの考えにまとまった。        
① シュートチャンスにシュートしてないか ら、もっとシュートを撃てばよい。
② シュート出来る場所に行ってない(シュート領域へ走り込まず、安全な場所でボールを回している)。

この二つの点に絞ってビデオを見ると、「かおりちゃんはいつもペナルティエリア内にいるけど、立ったままやから、パスなんかできないし、・・・他はずっと外にいてる」
また、Bチームについては、「シュート出来るところに二人が入り込んでいる。それもパスを出す直前に走るから、防御は付いて行ってない。」ことが分かったのである。
一般には、児童や初心者には、ビデオを見ての分析は難しいものである。全ての資料がつまっているため、逆に、何を観察するのかわからないまま、だだ漠然と見てしまうからである。しかし、今回のように「心電図」等の資料から疑問点を見つけ(気づかせ)、観察するポイントを明確にした上でのビデオ観察はかなり有効である。事前に、キャッチしてビデオを撮っておくのである。

第5段階=「速攻で攻める」
 防御の2人が、ゴール前を連携して守るようになると、防御が攻めに対して相対的に優位にたってくる時期である。攻めの戦術としては、中盤において、比較的ボールのキープ力に難のある相手がボールを保持しているときに、プレッシャーを掛け、ボールを奪っての速攻が一番多い。この頃になると、速攻を防ぐためだけでなく、攻防両面において、ポジションが半固定化し、概ね「図7」のようになってくる。(技術レベルの高い者がA、Bのポジションに)

第7段階=角、防御の裏、逆サイドへのパス・おとりの動き
 「攻防の切り替え」を前提としたポジション(第六段階)を取るようになっても、「速攻」は常に現れるゲームの様相である。しかし、遅効においても、『「角」へ持ち込み、センターリング』という攻撃は比較的早く出てくる攻めである。また、この攻撃が成功しだすと、中央よりで防御の裏に走り込む味方へのタイミングのはかった縦パスも成功するようになってくる。防御側がマンツーマンで内線(図8)を守るようになってくると、中盤において逆サイドへの速いパスで防御を崩したり、おとり(図9=防御がある程度マンツーマンディフェンスが出来る状態でないと効果なし)の動きで、スペースを作って攻めることなどが次の課題である。

 これらの作戦考案及び習熟練習に『「じゃまじゃまサッカー」Ⅳ』(図10)を活用するのも良い。
「 新ルール」攻めは、じゃまゾーン内でもシュートできる。しかし、スタートゾーン内からの縦パスはだめ。守りもシュートゾーンに入って守っても良い。


もどる