「開脚跳び」の呪縛から逃れよう
最近でこそ「台上前転」や「首はねとび」「横跳び越し」などの技の例示、更には実践例が出されるようになってきていますが、それでもなお、「開脚跳び」神話とも言えるようなものに捕われている小学校の教師が多いのではないでしょうか。開脚跳び的な運動は、「馬跳び」や「タイヤ跳び」といった遊び的なものの中での経験で十分で、跳び箱運動の中で取り立てて行うことは益がないばかりかマイナスの部分の方が多いのではないかと思います。
少なくとも「跳び箱の授業=開脚跳び」という発想から自由になって考えてほしいと思います。
「何を教えたいか」を先行させて
「じゃあ何を教えたら良いのか」と思われるかもしれませんが、ここでも、○○跳びという技(教材)が先にあるのではなく「○○という内容を教えたい」ので「◇◇という技」や「教材」が必要になってくる、という発想をしてみてはどうでしょうか。
内容は、体育科教育の目標を運動文化の側からと子どもの側から追求していった時の接点として表われてきます。そして、その内容を教えるのに相応しいものとして「跳び箱運動」が選ばれるという順です。
今のところ私が「跳び箱の授業」が担い得る「内容」として考えているのは、次の4つです。だいたいの目安として私は、A(小学校低〜中学年)B(小学校中〜高学年)C(小学校高〜中学校)D(小学校高〜中学校)と考えています。紙面の都合で詳しくは述べられませんが、各内容に対する大まかな実践の方法を述べたいと思います。
A:「できる」喜びを「みんな」が味わう
種目 台上前転 横跳びこし⇒ひねり横跳びこし
跳び箱遊び的な導入から、マットや平均台などの器具も利用し、「腕支持感覚」「逆さ感覚」「回転感覚」などを養いながら行う。運動の方法やポイントなどは教師から提示するが、グループ内の教え合いを組織しながら「みんな」ができることを目指す。
B:「わかる」「できる」喜び(技術の分析・総合)を教える。
種目 台上前転⇒首はね跳び
横跳び越し⇒ひねり横跳びこし
種目を限定し、本格的な技術学習の導入として「わかる」ことが「できる」ことにつながっていくことを実感させる。例えば台上前転→首はね跳びであれば大まかな練習ステップは教師から提示しながらも、そこでの技術分析を子どもの手に委ねていく。そして子どもらが分析したあれこれの中から共通にポイントとなっていくもの(入りの姿勢・はねのタイミングと方向)を見つけさせていく。(総合)
C:技術の分析・総合を通して「鑑賞・表現」を教える。
種目 頭はね跳び⇒前方回転跳び
ひねり横跳びこし⇒側方回転跳び
跳び箱(跳馬)を表現系のスポーツ(採点競技)と捉え、技術の分析・総合を「その技ができる」というところにととめず「より雄大に、美しく、正確に」という「鑑賞・表現」にまで発展させる。そのために「自画像づくり」や「採点基準づくり」「r競技会づくり」などにグループで取り組ませ、「見せる・見る」ことを意識的に取り入れていく。
D:スポーツ文化の発展史
座学 跳馬と跳び箱の成立過程の違い
追体験的実技 力くらべ・技くらべ⇒採点競技へ
跳馬と跳び箱の成立過程の違いや、日本に入ってきた時の矛盾などを、グループで調べ学習させる。また「競技の歴史」にも注目し、「力くらべ・技くらべ」から「採点競技」化していく過程を実技で追体験することで、スポーツの発展過程(競い方合い方の変遷)を「跳馬」という種目を通して実感できるようにする。