1.「ドル平」で授業のイメージを変える
「泳力別に分けて泳がせること」「自由時間」−他の教科・教材では考えられないことが、水泳に限っては当然のように行われています。このような水泳指導を低学年から子どもたちは受けているものだから、自由時間をとらないとブーブー文句を言う子ども(中には教師もいますが)もいます。「他の教科で、『はいっ今から自由!!』ってほったらかしにしますか?」と、いつも返すのですが、これがなかなか理解されません。プールの事故で責任を問われるケースが多いのに、どうして自由なんてできるのか?私からすればとても疑問です。
この様な水泳の授業のイメージを変えていくためには、やはり、地道な実践しかありません。「わかる内容」を重視した「ドル平」の素晴らしさを、実践を通して学年から学校へ広めていくことが大切です。
2.「ドル平」までにつけておきたい力(幼小低学年)
この段階では、水に慣れ親しむことが先決ですが、ただ楽しいだけで終わることのないよう「わかる中身」が大事になってきます。「ドル平」までの水遊びの段階では、次の三点が重要です。
@呼吸法:まとめて「パッ」と息をはく リズムは「いーち・にーい・さぁーん・パッ」
・牛乳キャップを裏返す遊び(教室で)
・呼吸を「パッ」とはき、水しぶきをとばす(プールで)
A息こらえで”ぽっかり”浮く
・もぐりっこ
 |
「忍者になってドボーン
1・2・3〜・パッ」
・いろいろなものに変身してもぐりっこをします。
・息こらえをするかぎり、人は浮いてくるものであることをわからせる遊びです。 |
・お話すいえい
 |
お話に合わせて、動いたり、顔を水につけたりもぐったりします。
(例)しろくまのさんぽ
「しろくまさんがやってきて、かたあしあるきをしていたら、りょうあしそろえてうきました。1・2・3〜・パッ」
※ひとりの子どもが泳ぐときに、グループの他の子は声かけをします。
お話の中に「息をこらえる」「まとめて吐く」などの泳ぎに欠かせない技術がお話の中に含まれています。「お話すいえい」を発展させて、今度は、自分たちでお話を作ったり、発表会をするなど、シンクロへの発展性もふくまれています。 |
・五感を総動員
「水が背中にヒタヒタしているかな?」「水の中でプールがキーンキーンと言ってないかな?」「水のあわは見えるかな。」「もぐったら、自分の足は見えるかな」などを問い、プールならではの感覚を体験させます。
B水の中での不安定を克服できる身体操作能力
・脱力と緊張、アゴの上下で体がどのように変化するのかをわからせる。
発明浮き→ |
「スーパーマン浮き」と「クラゲ浮き」の対比→ |
変身浮き |
いろいろな浮き方を発明し
それに名前をつける
↓
グループ発表へ |
スーパーマン浮き
<こしのしずむ浮き方> |
クラゲ浮き
<ぽっかり浮く浮き方> |
 |
 |
 |
力が入る ←→ 脱力
アゴが上がる ←→ アゴをひく
体をそる ←→ 体が丸くなる
(せなか)
|
・発明技を組み合わせて、連続していろんな浮き方を経験させる。
・2人組になり「へんしーん・タッチ」というかけ声で、変身する人の背中にタッチする。
・浮いてきてからタッチするようにさせる。
・タッチする側の子どもに、アゴの上下動で体が浮くことに着目させる。
(例)
・スーパーマン→クラゲ→大の字
・だるま浮き→クラゲ→ラッコ浮きなど
※さらに音楽に合わせるなどして、変身浮きのグループ作品作りへと発展することも可能である。
※スーパーマン→クラゲ→スーパーマン・・・のくり返しは、バタフライのうねりの動作の導入となる。
|
「発明浮き」で、こしのよく浮く浮き方、こしがしずんでしまう浮き方の二つに分類し、その中から「スーパーマン浮き」と「クラゲ浮き」を対比させる。 |
ゴーグルの使用について
大賛成です。まず、ゴーグルを使用することで、水への恐怖心を取り除くことができます。また、ゴーグルをつけると、よく見えるので、アゴの上下動や手足の位置の観察がしっかりできます。そもそも、海水浴やプールなどを始めとして、生活の中で何もつけずに泳ぐことの方がまれでしょう。プールの塩素による目の痛さを訴える子どもの多いこのごろです。積極的に認めることの方が大事だと思いますが・・・・。
3.「ドル平」のポイント(全学年)
@ドル平
水遊びを通して、息こらえで浮いてくるまで待つこと、アゴを引いてポッカリ浮くこと(クラゲ浮き)ができたら、ドル平はすぐにできます。伏浮き呼吸(クラゲ浮きで浮いてきて→呼吸→沈んで再びクラゲ浮きのくり返し)を経て、「ドル平」に入りますが、その際、4つのポイントができているか、友だち同士で観察させるようにします。
ドル平泳法と4つのポイント
リズム:「トーン・トーン・スー・パッ」 |
 |

アゴをひいてプールの底 「スー」でゆっくりアゴをあげる 水を押さえて「パッ」と息つぎ
(おへその方)を見る
足の甲で軽く
「トーン・トーン」と2回水を打つ |
観察のポイント
@息をまとめてはく。息つぎ「パッ」
☆息つぎ「パッ」
A「パッ」の後、おへその方を見る。
☆「パッ」の後おへそ
B「スー」の時にゆっくりアゴを上げる。
☆首は「ニューッ」)
C全体にかかわって、肩や腕の力をぬく。
☆手はクラゲ |
・これは4組3グループの観察表です。白の下じきに油性マジックで4つのポイントを書き、プールで使います。子どもたちは、@→Cの順に相互観察させます。
・子どもたちは、カラークリップをそれぞれに渡し、自分の色を決めておきます。クリップのある所が、その子どもが課題となるポイントになります。
|
Aドル平の発展(ヴァリエーションのあるドル平)
ドル平で泳げるようになってきたら、息つぎの回数を減らして、さらに楽に長く泳ぐことめざします。50m、100mと距離をどんどんのばしていきます。また、近代泳法へすぐに発展できるように、ドル平のリズムを変えて泳ぎます。
○ワンキックドル平(ドル平のキックを一回にして泳ぎます。平泳ぎへ発展します)
リズム:
「トーン・スー・スー・パッ」
※けのび姿勢の状態を長く続けられるように指導します。そのため「スー」を2回入れています。
○リズムを変えたドル平(キックの間に伸び「スー」を入れます))
リズム:
「トーン・スー・トーン・パッ」
※
アゴの上下動を意識的に行うと、ドル平にうねりができ、ピッチングドル平になります。→バタフライへ
「パッ」の時に片手かくと片手ドル平になります。→クロールへ
4.「ドル平」から近代泳法へ(高学年〜中高)
ここでは、ドル平で学習した大切なポイントを生かし、各泳法で欠かせないポイントを理解すること、ドル平から近代泳法への発展の筋道がわかることが授業での大きな柱となります。 ドル平から近代泳法へと発展させるわけですが、リズムや型にあてはめるのではなく、高学年であれば、技術のポイントをグループ学習によって発見していくような、授業の仕掛けが大切になります。
@各泳法では何が大切なポイントとなるのか?(技術の分析)
Aどのようにすれば近代泳法になるのか?(技術の系統性の理解)
泳法 |
わからせたい内容 |
技術指導の系統性 |
クロール |
ローリングとそれに伴う呼吸の方法 |
ドル平 →片手ドル平 →ドルクロ →バタ足の指導→クロール
「トーン・スー・トーン・パッ」 「トーン・かいて・トーン・パッ」
片方の手をかく |
平泳ぎ |
けのび姿勢・カエル足 |
ドル平→ワンキックドル平 →スーパードル平 →平泳ぎ
「トーン・スー・スー・パッ」 平泳ぎの手で大きくかく カエル足 |
バタフライ |
うねり |
リズムを変えたドル平 →ピッチングドル平 →バタフライ
「トーン・スー・トーン・パッ」 うねりのあるドル平(アゴの上下動) 両腕をぬく |
参考文献)
・目で見る水泳指導のポイント/岡田和雄・大貫耕一(あゆみ出版)
・たのしい体育−水泳−/体育同志会(ベースボールマガジン社)
・水泳の授業「体育科教育別冊」/林恒明(大修館書店)
・水遊び&水泳ワンダーランド/黒井信隆(いかだ社)