1.走り幅跳びの技術について
@走り幅跳びには助走スピードが必要
子どもたちが、どっちが遠くへ跳ぶかを競う時、まずするのが走り始める場所を後ろへずらすことです。これは、勢いをつければ、より遠くへ跳べることをそれまでの経験で知っているからでしょう。すなわち、より遠くへ跳ぶためには、スピードが必要なのです。しかし、闇雲に遠くから走っても疲れるだけです。スピードを作り出すためには、それに見合った助走距離が必要となります。自分がトップスピードに達するやや手前、小学生なら「15m〜25m」が妥当なところでしょう。
A走り幅跳びには、高さ(跳躍の角度)が必要
子どもたちは、より遠くへ跳ほうとは意識しますが、それが高さと直接関係していることには案外気付きません。これは、ある程度勢いよく水が出るように設定したホースをまっすぐ前へ向けるのと少し上に向けるのとを比べて見せることで分かります。また、1991年の東京国際陸上でカールルイスと競ったマイクパウエル選手は、当時世界一を誇ったルイス選手のスピードに「高さ」を作り出す技術で対抗し、世界新記録を打ちたてました。パウエル選手の跳躍角は、人間の作り出す速くへ跳ぶための角度としては理想的な角度(20度を超えるもの)だったということが分かっています。こんな話をしてもよいでしょう。
高さを作り出すためには、跳び箱で使う踏み切り板を使うのが有効で、フワッと浮いて高く跳んだ感覚がつかめます。
B上の二つをバランスよく行うための踏み切り支配が重要
いくらスピードがついてもそれを生かすことができなければ意味がありません。@で「トップスピードのやや手前」と書いたのもトップスピードに至ったら、自分のスピードを制御できなくなるからです。これは、下りの坂道で速く走って、こけることがあることからも想像できるでしょう。どうしても片足着地しかできないような運動経験の少ない子どもは、特にスピードが出れば出るほど距離が伸びなくなってしまいます。このような子どもたちには、まず踏み切るタイミングをあわせることを教える必要があります。この感覚作りとして「ケンパ」が有効です。
「タタタタ ケンケンパ」「タタタタ ケーンパ」等、リズムと動きを重ね合せて短い助走距離で練習することが大切です。
また、高さを作り出すためには、強く踏み切ることが必要になります。これにも、踏み切り板(跳び箱用)は有効です。強く踏み切ったかどうかが、踏み切る際の「音」で分かるからです。また踏み切り板は、たての幅があるので、それに制約を受けるという意識は少なく、「ここで踏み切るんだ。」という意識を生み出してくれます。したがって、ラインカーで引くような細い線を踏み切りラインとして使わないことです。細い線は、子どもたちにとっては大きな制約になるからです。踏み切り板と同じくらも、の幅のある(たて)踏み切りエリアを作るとよいかもしれません。
このような内容は、そのまま指導すれば、かなりの教えこみ授業になりますし、「できる」を追及するのみの授業に終わってしまいます。経験的ですが、技術の重要なポイントは、子ども達でも十分見つけられます。私たちは、その中身を十分に理解し、交通整理に徹したいものです。
2.「なぜ」に答える
「なぜ」に答えることは、子ども達の学習への興味づけになります。そればかりでなく、ルールがあるからするのではなく、そのルールが自分達にとって必要かそうでないかを判断する材料にもなります。自分たちに見合った競い合い方を考える材料にもなります。また、人類が生活の一つの形態として行ってきた行為がスポーツとなって発展していったことを知り、そこでどのような工夫がなされてきたかが分かることは、スポーツをより文化としてとらえることにもつながります。これは、スポーツが本来あるべき姿を考えるきっかけにもなりえます。そして、「なぜ」に答えるには、そのスポーツの歴史に触れることが重要であると思われます。
@なぜ、走り幅跳びという競技が生まれたのか。
大昔、人間が獲物を追い求め野山を駆け巡るようになって以来、生活上、労働上の必要に迫られて川や沼地、溝などを跳び超えたり、またぎ超したりする動作が生まれてきました。速くへ跳ぶ動作は、高く跳ぶ動作よりも古くから生活と密着していたのではと思われます。この生活・労働の動作が、古代の競技となったと推測されます。古代ギリシアの祭典競技にも走り高跳びの記録はなく、走り幅跳びが種目として採用されていたようです。当時は、両手に重りをもって跳躍し、両足で着地しないと無効になりました。距離よりも跳躍全体の美しさが重視されていたようです。
このようにして走り幅跳びは、お祭りなど大勢人の集まる場所で行われた「力比べ」として発展し、1850年代にイギリスなどでトラックに持ち込まれたと考えられています。
Aなぜ、踏み切り線(板)があるのか
現在のルールでは、踏み切り線(板)をほんの少しでも超えるその試技は無効になります。これは、前述したことから考えると、川などを飛び越す際に土手から足を踏み外したのと同じであるという意味をもってルールが運用されているのではないかと推測されます。
B競技会では、どのように試技数や順位を決めてきたのか。
イギリスで競技として行われるようになってまもなくの陸上競技の運営にかかわる著書のなかに、「まず出場選手は、全員3回の試技を行い、その後、優秀な記録を出した上位2名に限って後3回の試技を行って順位を決める。」という記述があるそうです。
この頃は、優勝者を決めることが先決であったようです。この時期の延長線上に現在の6回という試技数の基礎があるようです。
ここに取り上げた「なぜ」はほんの一部です。そして、「陸上競技のルーツを探る」(岡尾恵一著)「スポーツ大辞典」(大修館書店)等ををひもとけばもっと「なぜ」の世界が広がってきます。授業にどのように入れるか、実践する際に考えてみてください。